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東京地方裁判所 平成2年(ワ)10773号 判決 1993年4月23日

東京都目黒区鷹番二-一八-三-一〇六

原告

三浦正久

東京都千代田区霞ケ関一-一-一

被告

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右指定代理人

梅津和宏

寺島進一

川上建夫

松倉文夫

竹下徹

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一〇億三九二二万及びこれに対する平成二年九月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、昭和五九年五月一五日、東京国税局職員により、脱税容疑で、捜査、差押を受けた。

2  原告は、東京国税局長に対し、昭和五九年六月一八日付けの差押記録一部還付申請書及び同年一一月六日付け催告書により、押収記録の還付を求めたが、同局長は、これに応ぜず、全記録を東京地方検察庁(以下「東京地検」という。)に送付した。

3  原告は、東京地検の検察官に対し、昭和五九年一一月二七日付け及び昭和六〇年二月八日付けで、特許出願書類の還付申請をなした。

4  原告は、昭和六一年九月五日、所得税法違反等被告事件において、上告棄却の決定を受け、同月一〇日、右確定により、受刑するに至った。

5  原告は、昭和六一年一一月一〇日、東京地方裁判所に準抗告を申し立て、同年一二月ころ、東京地検に対し、押収中の記録の還付申請をなした。

6  原告は、東京地検から、昭和六一年一二月二四日、未還付証拠品全部の還付を受けた。

7  原告は、別紙発明目録<1>記載の発明(以下「本件発明」という。)の出願をしなかった。

二  原告の主張

原告は、収税官吏及び検察官の違法な差押、領置及び還付の遅滞等により、本件発明特許出願ができず、五一億九六一一万円の損害を被った(経過は、別紙「請求原因」記載のとおりである)。

三  被告の主張

原告主張の差押及び還付等に関し、なんら違法性はなく、また、主張の損害は生じていない。

第三判断

原告は、本件発明の特許出願ができなかったことにより、損害を被ったというが、原告の研究のプロセス、前提となる基礎理論には疑問があり(原告52ないし61頁)、原告において、主張のような価値のある発明をなしたと認め難い。

したがって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(裁判官 佐藤嘉彦)

請求の原因

一、昭和五九年四月二〇日頃原告は別紙発明目録<1>のとおりの超電導物質を発明するに至ったことで、日本国内を含む国際特許出願書を特許庁宛に提出せんと企て、発明協会タイプ係にタイプ印刷浄書注文し、昭和五九年五月八日頃迄に“超電導セラミックス”と題した国際特許出願書を準備完了し、原告自宅内に保管していたところ、昭和五九年五月一五日突然東京国税局長は、原告の脱税被疑事件名下、原告不在中の自宅内から、右出願中の書類を含めた全記録を差押え押収した。

二、そこで、原告は右国際出願書は未公開発明であり、直ちに出願提出しなければならないため、昭和五九年六月一八日及び、同年一一月六日の二回にわたり、東京国税局長宛に原告自宅内から差押え押収中の記録の内右特許出願準備中の書面は、脱税事件には全く無関係なものであるから、直ちに還付するよう求めたところ、右局長は何ら具体的に応答しないばかりか当該記録を全く還付せず、不法にも勝手に東京地検宛差押え中全記録を移送するに至った。

三、昭和五九年一一月二七日原告は止むなく差押中の特許記録等の移送先の東京地検宛当該特許出願書類は、脱税事件とは全く無関係のものであることを重ねて申立てた上、当該特許出願書類を還付申請したところ、右同庁では全くこれに応じない。そこで原告はその後昭和五九年一二月七日から、翌昭和六〇年二月七日迄の間、前後五回にわたり再三、当該書類の還付申請催告したのに拘らず、一部の旧特許出願済記録のみを還付し残余特許出願準備中の記録の還付申請に対して右同庁はこれに応じない。又原告から右同庁に対して、当該特許記録が還付できないならば、代わりに閲覧許可するよう申立てたのに拘らずこれにも全く応じない。

四、昭和六一年九月五日原告は前記脱税事件の刑事上告審が却下され、同年九月一〇日確定し受刑するに至ったが、東京地検は前示の原告から差押え中の後半不提出全記録(特許書類を含む)は、直ちに還付する義務が生じたのに拘らず、全くこれを怠り原告に還付しようとしない。そこで原告は昭和六一年一一月一〇日止むなく東京地裁刑事部宛に準抗告申立を提出する一方、昭和六一年一二月九日頃重ねて押収中の記録を還付するよう催告したところ、ようやく同年一二月二三日に至り東京地検では原告宛、府中刑務所に差押え中の公判不提出の全記録を送付して還付した。

五、原告は昭和五九年五月一五日の差押え日から、昭和六一年一二月二三日までの間、東京国税局と東京地検の双方から全く発明記録を還付されず、かつ閲覧とて全く許されなかったことで、発明目録<1>の発明について出願することが事実上許されなかったものである。ところが、この間の昭和六一年九月頃、第三者IBMのベドノルツらにより発明目録<2>の発明がなされる一方、昭和六一年一二月頃には同じく第三者東京大学長らにより発明目録<4>の発明がなされ、更に、昭和六二年一月頃には同じく第三者チューらにより発明目録<3>の発明が次々になされるに至った。

六、これがため原告の発明目録<1>の特許出願は、事実上出願提出前に失効するに至った。

七、六項<イ><ロ>の如き原因により、原告の発明記録は昭和五九年五月一五日の差押えから、昭和六一年一二月二三日差押え解除による還付される迄の間、原告は再三、脱税事件とは全く無関係な右発明記録は、直に還付するように東京国税局や、東京地検宛求めていたのに拘らず右同庁では全く原告の特許出願準備中の発明目録<1>の記録を還付せずにこれを怠り、原告から差押中の発明記録の閲覧さえ許さなかったことは不法であり、これによって原告は自らの発明の内、発明目録<1>の国際特許出願は勿論、物理学会等に発明目録<1>の発明を公表する機会を失い、更に、理学博士及び工学博士としての学位を得る機会迄失った上、右発明に対する数々の栄誉を受ける機会迄失うに至った損害は多大であるから、被告は国家賠償法一条及び民法七〇九条等により、原告に対し損害を賠償すべき義務がある。

八、損害

<イ> 右の原因は、先ず、東京国税局長が国税犯則取締法七条<4>項に反して、原告の還付申請に係る特許記録を還付せず、民事執行法一三一条一一号に該当する発明記録であることを公知して居たのに拘らず、故意に還付に応じなかったばかりか、かえって当該特許記録を東京地検宛に脱税事件の証拠と認めて不法に移送していたために生じたものである。

<ロ> 一方、東京地検では、刑訴法一二三条<1>項で定める原告より還付申請中の特許記録は、前記の如く民事執行法一三一条一一号に該当する書面である事実や、脱税事件には全く何の関係もない証拠であったから直ちに還付すべき義務があったのに拘らず、右法令にも反して還付に応じず、又閲覧も許されなかったばかりか、更に、原告の刑が確定したのに拘らず約四ケ月間も長期間押収物を還付せずこれを怠っていたために生じたものである。

<1> 遺失利益について

原告は昭和五九年五月一五日から昭和六一年一二月二三日迄の間、原告の発明記録が事実上差押さえられていたため、この間第三者らが同旨発明をしたため、原告の発明目録<1>の超電導物質発明は、その後に第三者らが提出した超電導特許出願の内、原告の発明目録<1>の基本発明を応用した発明等は、全て原告の基本発明に抵嘱するから、これら第三者提出に係る応用発明は当然に原告が昭和六一年九月頃迄に発明目録<1>の発明特許出願していたならば、原告発明が優先するために、その後出願し得た第三者らは、原告から実施権を買取る必要が生じたから、これによって原告が発明目録<1>の特許出願を昭和六一年九月頃迄に提出していたならば、得られたであろう遺失利益は左のとおりである。

(内訳)昭和六一年一月一日から平成三年一月一五日迄の間に公開された超電導特許件数の内、日本国内分は合計一〇、一〇四件(但し、超電導実用新案公開分を除く。)であるが右の内原告の発明目録<1>の超電導基本発明に抵嘱する超電導公開発明は合計五、八九八件である。これらの原告の発明目録<1>の基本発明に抵嘱する超電導特許についての実施権料は特許一件当たり二〇〇万円を下らないから、原告の基本発明に抵嘱する超電導公開特許全件の実施権料は合計一、一七億九、六〇〇万円となる。右金額から税額を差引いた事実上の原告の遺失利益は合計四七億二、三七四万円となる。

<2> 慰謝料について

(内訳)(イ) 原告が特許出願と発明を公表する機会を失ったことで精神的苦痛に対する慰謝料。

(ロ) 原告の発明を基として理学博士、又は、工学博士として学位を得る機会を失った慰謝料。

(ハ) 原告がノーベル賞、又は、同賞候補、或いは、同賞に準ずる栄誉等を得る機会を失った慰謝料。

(ニ) 右(イ)、(ロ)、(ハ)の慰謝料合計は遺失利益の一割が相当であるから四億七、二三七万円となる。

<3> 損害合計

損害合計は、右<1>遺失利益と<2>慰謝料の合計であるから損害合計金五一億九、六一一万円となる。

九、被告には、原告の右損害を賠償すべき義務があるから原告の損害合計五一億九、六一一万円の内金、(二割相当)金一〇億三、九二二万円、及び、これに対する本訴状送達の翌日から支払済に至る迄、年五分の割合による金員の支払いを原告は被告に求めるため本訴請求するものである。

発明目録<1>

一般式を(M1・M2)Cu3Ox

但し、M1=La、Bi又は同族同類元素

M2=Sr、Ba又は同族同類元素

(x値=5~7)

上記一般式で示される元素類からなる元素を混合し高温焼結したペロプスカイト結晶構造を呈する合成物で極低温度下で超電導となることを特徴とした超電導セラミックス(金属酸化物)。

M1は、周期率表第Ⅲ属b類、及び周期率表第Ⅴ属a類に属する元素全て含まれるからLa、Y、Ac、Bi、Sb、As、P、N、等のほか希土類元素であるCe、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを含む。

M2は、周期率表第Ⅲ属b類に属する元素を全て含むから、Ba、Sr、Ca、Mg、Be、等を含む。

注.本発明は発明目録<2>、発明目録<3>、発明目録<4>、の各発明を全て含む発明になる。

尚、本発明は昭和58年4月20日頃迄に国際出願準備完了していた発明である。尚、又、本発明は原告として特許願昭和62-302043号同62-315827号及び同優先権主張昭和63-300103各号特許出願中のものである。

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